ばあちゃんたちと一緒に、生きがいを感じながら働ける地域や社会にしたい。 ーうきはの宝株式会社 大熊充氏
「うきはの宝 株式会社」
うきはの宝さんは、75才以上のおばあちゃんたちが働く会社なんですよね。
はい、ばあちゃんたちがイキイキと働き生きがいを感じ、収入を増やすのを目的とした会社です。ばあちゃんたちが働く「ばあちゃん食堂」をやっています。
どのような経緯でこの会社を始められたのでしょうか?
僕自身、福岡県うきは市で生まれて、高校卒業後にバイク関連の仕事をしていました。ある時、バイク事故により約4年も入院することになったのですが、そこで出会ったおばあちゃんたちのおかげで、笑顔を取り戻し前を向くことができるようになりました。
それが、後にうきはの宝を立ち上げる原体験となったのですね。
ただ、退院後、すぐにおばあちゃんたちが働く会社を始めたわけではなく、デザイン事務所を創業しました。僕自身デザイナーで。その後、さらにデザインの勉強をしようと思い、博多の日本デザイナー学院でグラフィックデザインとソーシャルデザインを学びました。
ソーシャルデザインですか。初めて聞きました。
デザインを使ってどのように社会課題・地域課題を解決していくか、ということを学ぶんです。
社会課題に取り組む際に、デザイナーならではの強みが生きるところは何でしょうか?
本質に切り込んでいくというところでしょうか。
なるほど。そもそもなぜ大熊さんは、デザインを使って社会課題を解決したいと思われたのでしょうか?
デザイナーはお客様に頼まれてサポートするのが仕事なんです。クライアントワークで、これまで経営の課題解決をしてきましたが、自分のやりたいこととは何かが違うと感じていたんです。裏方ではなく、もう少し直接的に誰かを救ったり、問題を解決したいと思っていて。
確かに、クライアントの要望ありきの課題解決ですもんね。
このままクライアントの要望に応えているだけでいいのか、3年くらい悩んでいました。うきはという田舎で、都会の企業の仕事ばっかり受注していたんです。せっかく農村に住んでるのに、身近な地域の困りごとには関わってこなかったな、と。
うきはの課題に取り組みたいと思われたのは、やはり故郷への思いがあったからでしょうか?
そうですね。うきは市の地域課題に挑みたいと考え、ソーシャルデザイン科やボーダレスアカデミー(ハチドリ電力を展開するボーダレス・ジャパンが展開する、社会起業家をつくる”ソーシャルビジネススクール”)に吸い寄せられるように入って行きました。
アカデミーではどんな学びがあったのでしょうか?
故郷のおじいちゃん・おばあちゃんへのふわっとした思いから、自分が解決したい社会課題が明確になりました。その後、昨年10月に75歳以上のおばあちゃんたちの働く会社を立ち上げ、デザイナーが社会課題に挑むという実働にチャレンジしています。サポートではなく、デザイナーが直接的に社会課題に関わっていければ…。
経済苦をなくしたい
ズバリ、大熊さんの解決したい社会課題は何でしょうか?
福岡県うきは市の75歳以上のばあちゃんが、元気で身体は 動くが、社会的に孤立してしまい、国民年金の受給だけでは生活もままならない状況を解決したいです。
具体的にはどんな状況なのでしょうか?
おばあちゃんたちの生活が苦しくなっているんです。年金だけじゃカツカツ。それどころか生活していけない人もいます。
そうだったんですね。都市ではコンビニで深夜も働く年配の方を目にしていましたが、田舎でも生活は厳しいんですね。
今の会社を立ち上げる前に、ボランティアでお年寄りの無料送迎をやっていたんです。3000人を超えるおじいちゃん・おばあちゃんと対話しているうちに、彼らの生活苦の状況が見えてきました。月2,3万プラスであれば生活が楽になると。
当事者の生の声を聞いたんですね。
また、おばあちゃんたちが孤立している状況もわかりました。普段の生活の中で誰とも関わらないんです。最初は、一人暮らしだからかと思ったのですが、ご家族と同居していても、昼間は一人で、家族と生活リズムが違うため、孤立してしまっています。誰ともコミュニケーションをとらないと、生きがいもなくなってしまって…。
ご家族と同居していても、孤立ですか。
はい。あとは、無料送迎で移動のお手伝いをしていたけれど、経済的に苦しくてそもそも買い物に行けない人にアプローチできないできないという現実もあって…。
お金を渡すわけにはいかないですしね。
自分にできることを考えた結果、働く場をつくることで、月2,3万の報酬を払おうと思いました。働くことは生きがいにもなりますし。
働くことは、収入を得るだけでなく、やりがいという側面もありますよね。
働くことは人と関わることですし、お客さんから感謝されることで幸せにも繋がりますよね。おばあちゃんたちに何をしたいか聞いたところ、「食」が出てきたので、「ばあちゃん食堂」を始めることになったのですが、「こんな料理を作って、こんなことがしたい」と取り組んでいくことが、彼女たちの自己実現にもなると思います。
幸せに繋がる職場で自己実現ですか。素敵です…!
これまで何十年も生きていて、一度も外で働いたことのない人も多いんです。昔の農家の奥さんは家にいることが多かったので、一度も社会に出たことない人がざらにいます。そんなおばあちゃんたちが生活が苦しいからって今から働けるでしょうか。
そうだったんですね。これから働く場を見つけることはなかなか難しいですよね。
国中探しても、75歳以上が働ける会社ってすごく少ないんです。そんなこんなで、「うきはの宝 株式会社」を作りました。
これまでおばあちゃんたちと関わってきた中で、心に残ったエピソードはありますか?
ありすぎて話すと長くなってしまうので、3つに絞ります!
はい、3つお願いします!
うちに働きに来てくれているおばあちゃん二人の話です。シフト制なのですが、ある時、同じ時間に来たんです。そこで、86歳くらいのおばあちゃんが、もう一人のおばあちゃんにある言葉を言ったんです。何だと思いますか?
え、何でしょう?
「おねえちゃん!」って言ったんです。どうしたのか思ったら、60年ぶりに幼馴染に再会したというのです。二人は隣町に住んでいて、車で10分ほどの距離なのに会ってなかったそうです。
ええ、そんな近くに住んでいるのに60年も…!
考えてみれば、車にも乗らない、行動範囲の狭いおばあちゃんたち。60年間会わなかったのも不思議ではないです。「死ぬ前に私たちを会わせてくれた!」と喜ぶ姿を見て、感動してしまいました。今では、昔に戻ったように仲良くしています。すごくキャピキャピしていて(笑)
なんだか可愛いですね!
携帯の番号交換して毎日電話しているそうです。今じゃ名コンビですね。このような再開のきっかけを作れたのは、素直にとても嬉しいなと思います。
会社を作らなければ、一生会えなかった可能性も高いですもんね。
75歳以上で正社員として働くのは少し難しいので、業務委託として、おばあちゃんたちには日当を払っているんです。働いてくれたらその日にお金を渡すのですが、仕事からの帰り道、ちょうど酒蔵開きの祭りがやっていたんんです。寄って行こう!となって日当を散財してお酒を飲みました。
おばあちゃんたちがお酒ですか。
普段はそんなに飲んでないはずなんです。切り詰めた生活をして、計画的に年金を使っているおばあちゃんたちですが、働いて計画にないお金ができたら使うんだな、となんだか嬉しくて。お酒を飲んで楽しんで、少しだけれど地域の経済も回して…。
日当があったからこそ、お酒を飲んで楽しめたんですね。生きがいにもなってきますよね。
もう1つのエピソードは、嬉しかったことであり、少し問題でもあるのですが、元気すぎて、おばあちゃん同士で喧嘩が起きてしまうんです。
ええ、喧嘩ですか!?想像できません。
孤立したおばあちゃんたちの中には、孤独によりうつ状態の人もいるんです。それが、働くことで、心も体も元気になっている気がして。科学的根拠はあまりわかりませんが、役割や目的があると体が動くようになるんです。
働くことはやりがいもありますしね。
はい、そんなこんなでおばあちゃんたちが元気になりすぎて、喧嘩が始まりました。80代のおばあちゃんが70代のおばあちゃんの悪口を言い始めたんです。悪口といっても、挨拶ができていないとかなんですけど(笑)
ええ、厳しい…
おばあちゃんたちの生きがいと収入を作るために、皆んなで一致団結できれば良いんですけど、些細なことで揉める現実もあるので…。これから、勤務シフトやチームを分けるなど仕組みで改善していく必要があるとは思うのですが、その反面、ここまで元気になってくれたことは嬉しいですね。
うきは市も先日の九州での大雨の被害を受けたと伺いました。皆さんご無事でしたか?
気候変動の影響は、自然災害となって、どうしても自然に近い田舎に来ますよね。今回の豪雨は本当に酷くて。ここ数年くらい、目に見えておかしくなってきていると感じています。
確かにそうですね。何十年に一度の大雨が毎年のように来ている印象です。
表面的な被害が出ている大雨だけじゃなくて、40年くらい生きていて明らかに変わってしまったと感じます。細かいところで言えば、僕が子供の頃はあった夕立も全くなくなってしまいましたし、以前は田舎にはとんぼが飛んでいたのに…。当たり前の風景が当たり前じゃなくなってしまったのに、人間だけは以前のままやり過ごそうとしている気がします。
そんな変化も感じられるくらい顕著になっているんですね。
専門家ではないのでどこまで因果関係あるか分からないけど、温暖化が何らかの要因じゃないかなとは思います。科学的根拠はないけど、今回の豪雨は地球が怒っているように感じました。
うきはの宝さんとして、地球温暖化を止めるために取り組んでいることはありますか?
まずはハチドリ電力に申し込んだことかな。少しでも環境への負荷をかけないように。
1番最初に挙げていただいて嬉しいです!ありがとうございます!
他には、うきはの宝の拠点は全て元々は空き家だった場所で、本社は古民家ですし、以前保育所だった建物を食品工場にしたりしています。空き家が沢山あるのに新しい建物をどんどん建てるのは、理にかなっていないですよね。木材だって無限じゃないんだから、有効活用していきたいですね。
確かに、最新のテクノロジーも良いけど、今あるものを長く使うことも大切ですよね。
私たちは食品事業をやっているので、いつも徹底してロスをなくそう!ということも言っています。無理して多く作らないというのは、起業前から固めていたことです。効率は悪いかもしれないけど、廃棄するために作るのは嫌なので、売れ残る可能性があるものは作りません。
水分を含む廃棄食品をゴミとして処理すると、かなりのCO2が発生してしまうと聞いたことがあります。
あとは、地産地消といいますか、食材はほぼ100%地元のものを使うようにしています。遠くのものだと輸送するのに環境負荷がかかりますし、身近に全て揃っているので、地元のものを使った方が、何にとっても良いですよね。食べる人・作る人双方にとっても。高い・安いではなくて、巡り巡って環境や地域の経済に良い影響を与えらえるよう、意識して食材を選んでいます。
ハチドリ電力へお申し込みいただいく決め手となった理由は何でしょうか?
やはり自然エネルギー由来の電力100%というところでしょうか。それを自分の意思で選択できるのが嬉しかったです。
そうですよね。もっと多くの人に選択できるんだということを知っていただきたいです。
自分が応援したい団体に電気料金の1%で応援できる仕組みも良いと思いました。ハチドリに参加している団体や活動家の方の中に、元々応援している人がいたんです。クラウドファンディングなどを立ち上げてくれれば、応援することもできるけど、なかなか定期的にはできていませんでした。
応援したくても、自分も普段の生活を送る中で、常に気にかけるのはそう簡単ではありませんよね。
直接お金送るというのも難しいですし。NPOは寄付を募っているかもしれないけど、窓口が分からないことも多くて。電気を通じて自動で継続して寄付できるというのは、とても便利で、応援しやすくなると思います。
元々応援している方がいたとのことですが、ハチドリを通じた支援先にはどちらを選ばれましたか?
3つ選択しました。フリーハガーの桑原功一さんと任意団体ミンナソラノシタさん、そして一般社団法人えんがおさんです。
その3つを選ばれた理由は何でしょうか?
桑原功一さんは、ある時、偶然彼の動画を見て感動して、クラウドファンディングなどを通して応援していたんです。日中関係が良くなかった時の動画で、警察に捕まったものの最終的にハグをしている動画で、ハグというツールであれだけ繋がっていけるは純粋にすごいな、国の違いなんて関係ないないんだな、と思わされました。
桑原さんの動画は感動しますよね。私も何度見ても泣いてしまいます。
ミンナソラノシタさんは、代表の林リエさんが、ボーダレスアカデミーで一緒に学んだ仲で。彼女の熱い思いと活動は知っていたので、迷うことなく応援しようと決めました。
そうだったんですね。えんがおさんは…?
えんがおさんは、高齢者の孤立をなくすために活動されているということで、僕自身が取り組んでいることにも近いですし、共感したからですね。
うきは市だけでなく、全国的に高齢者の孤立の問題はあって、それに取り組まれている団体さんですもんね。今後ハチドリ電力に期待することがあれば教えてください。
ハチドリの輪がもっともっと、日本中に広まって欲しいと思っています。これはハチドリ電力に対してというより、皆に対して言いたいことなのですが、自分の意思で電力会社を選んでいるか少し考えて欲しいかな。選挙と似ているところもあると思っていて、自分もそうでしたが、自分の意思では選んでいない人が多いですよね。一人一人の小さな意識の積み重ねが社会を動かすと思うんです。なので、小さなことから皆で始めよう!と声を大にして言いたいです。
嬉しいお言葉をありがとうございます!私たちも、小さなことから皆で始めていきたいと本気で思っています。ぜひ一緒にハチドリの輪を広めていきましょう!インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!
プロフィール
福岡県うきは市の75歳以上のばあちゃんたちが働く会社です。高齢化の進む地方の田舎で、ばあちゃんたちの生きがいの創出と収入増を目指し、75歳以上のばあちゃんたちと一緒に働ける場・活躍できる場を作っています。食堂や、惣菜・おむすびの卸売販売、編み物ブランド、手作り料理や加工品の通販など、ばあちゃんたちの「知財」知恵と特性を活かした商品とサービスを生み出します。
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