先回りせず、余白を残す。建築家/保育園経営 blanco野口さんが見つめる子どもの未来

株式会社blancoさま/株式会社いちたすさま
- 教育・子育て
- ~100名

全国の幼児教育・保育事業を営む経営者を支援する株式会社いちたすの大窪さん。これまで数多くの園と関わるなかで、「この園は、何かが違う」と感じた場所がありました。
それが、建築家でありながら、自らも保育園を営む株式会社blancoの野口さんの園でした。子どもたちや先生たちの表情、流れる時間、そこにある空気。その一つひとつに、ほかの園とは違うものを感じたといいます。
建築と保育。一見すると別々に見える二つの仕事ですが、その根底にあるのは、子どもたちへの、一つの想いでした。 今回は、野口さんとの出会いをつないでくださった大窪さんとの対談を通して、その想いを伺いました。
どれだけいい園でも、地球環境が壊れていたら
まず、大窪さんに伺います。いちたすさんは、園の経営を支えるお仕事ですが、今回、ハチドリ電力との取り組みに共感してくださったのは、どんな想いからだったのでしょうか。

大窪さん:私自身が環境問題を「自分ごと」として考えるようになったのは、ボーダレス・ジャパンさんと出会ってからでした。それまでは、どこか他人事として見ていた部分があったんだと思います。
私たちは、園の経営や教育環境をより良くするお手伝いをしています。でも、どれだけ素晴らしい保育環境をつくっても、その土台となる地球環境が壊れてしまったら、子どもたちの未来は守れません。
だからこそ、子どもたちの未来を考えるなら、環境に負荷をかけない自然エネルギーを選ぶことも、教育に関わる私たちができる大切なことだと思ったんです。
そんな大窪さんが、ハチドリ電力との取り組みで、真っ先に思い浮かべたのが、株式会社blancoの野口さんだったんですね。
大窪さん:そうなんです。以前、株式会社blancoさんのリブランディングのワークショップに参加させていただいたとき、 現場の先生たちから自然とコンポストや循環の話が出てきたんです。ほかの園では、あまり聞かないことでした。野口さんご自身が建築家として、環境や循環について考えているからこそ、その意識が現場にも根づいているんだな、と感じました。だから、「野口さんしかいない」と思ったんです。
息子の待機児童から、はじまった
もともと建築設計事務所を営まれていた野口さんが、保育園にも関わるようになったきっかけを教えてください。

野口さん:きっかけは、私の息子でした。当時、息子が待機児童になってしまって、近くの保育園になかなか入れなかったんです。すると、子育てをしている親のほうが、社会から切り離されたような感覚になって、少しずつ疲れていく。うちでも、実際にそういう状況が起きました。これは、私たちだけの問題ではないなと思ったんです。ちょうど設計事務所をやっていたので、「保育園をつくれば、同じように困っている人を救えるんじゃないか」と考えました。
ただ、当時は経営のことも制度のことも何も分かりませんでした。そんなとき、ご縁があって関東の保育園の建て替え設計の依頼をいただいて。そこから1年ほど毎週関東へ通いながら、少しずつ学んでいきました。
実際に園が完成して、どんなことを感じましたか。
野口さん:完成した園で、子どもたちが元気に走り回って、先生たちも喜んでくれて。その光景を見た瞬間、雷が落ちたような感覚がありました。私はそれまで、ホテルやオフィスビルなど、大きな建物も手がけてきました。誇りも、やりがいもありました。でも、あれほど心が震えた経験は初めてで。「あ、これだ」と思ったんです。自分の息子を入園させるつもりで、自分ごととして向き合えた。その経験が忘れられなくて、そこから保育園の設計にのめり込んでいきました。
先回りしない、という設計
野口さんが、園の空間をつくるとき、大切にされていることは何ですか。

野口さん:一言で言うと、「作り込みすぎない」ことですね。たとえば、昔ながらの学校の教室って、正面に黒板があって机が並んでいますよね。あれって実は、人間の行動を無意識に制限していると思うんです。正面が決まっているから、そこに立つ人に向かって、みんなが一方通行で並ぶ。そういう姿勢になってしまう。
空間だけじゃありません。たとえば、「怪我をしないよう、段差や危険をなくしてほしい」という依頼をいただくこともあります。もちろん、法令上必要な安全性や、誰もが使えるための配慮は欠かせません。そのうえで、すべての不便を大人が先回りして取り除くことが、本当に子どもの成長にとって良いのかは、考える必要があると思っているんです。
それは、どうしてでしょうか。
野口さん:もちろん、重大な事故は絶対に起きてはいけません。それは大前提です。でも、見守られた環境の中で経験する小さな怪我は、時に必要だと思っています。小さな怪我を積み重ねるからこそ、大きな怪我を防ぐ力が身につく。危険を察知する力が、身体を通して育っていくんです。
先回りして、すべての危険や不便を取り除いてしまうことが、本当に子どもの成長にとって良いことなのか。多少の不便は、工夫を生むための種でもある。だからこそ、あえて子どもたちが考えられる余白を残すことを大切にしています。
遊びは、子どもがつくる
その「先回りしない」という考えは、保育のなかでも、大切にされているのでしょうか。

野口さん:そうですね。私たちは「体験してから、学ぶ」ということを大事にしています。
たとえば遊びでも、最初から「こういうふうに遊ぶんだよ」とルールを教えてしまうと、子どもたちはその通りにしか遊ばなくなる。でも、最低限のことだけ伝えて、あとは自由に任せると、自分たちで遊び方を考えて、ルールをつくって、どんどん発展させていくんです。大人の想像を超えた遊びが生まれることもあります。
先回りしすぎてはいけない、とよく話しています。よかれと思って、子どもの代わりに全部やってあげる。でも、それが過剰になると、自分で考える力を奪ってしまうこともある。まず自分で体験し、そのあとで意味に気づく。「あの体験には、こういう意味があったんだ」と後から気づくことで、好奇心を持ったまま学び続けられると思っています。
使い捨てない、という選択
先ほど、大窪さんから、株式会社blancoさんの現場に、環境や循環の意識が根づいている、というお話がありました。これは、意識的に取り組まれてきたことなのでしょうか。

野口さん:やっぱり、私が建築家であるということが大きいと思います。建築は、環境に良いことばかりをしている仕事ではありません。建物を壊して、また建てる。少なからず、地球環境に負荷をかけている仕事でもあります。だからこそ、環境に与える影響が大きい分野に携わる者として、少しでも責任を持って考え、行動していきたいと思っているんです。
ただ、園では「節電しよう」といった言い方は、あまりしていません。それよりも、普段何気なく使っているものが、そのまま捨てられていくことへの違和感があって。たとえば給食も、安全管理や衛生上の理由から、余ったものを活用できず、廃棄せざるを得ないことがあります。でも、世界には十分に食べることのできない子どもたちもいる。そのことを考えると、何かもう少し工夫できないのかな、と心が痛くなったんです。
そうした想いから、コンポストなどの取り組みが生まれていったのでしょうか。
野口さん:そうですね。コンポストに取り組んだり、自分たちで野菜を育てたりしています。こうした考えに共感してくれた職員が、自ら取り組んでくれて、「じゃあ、コンポストの箱をみんなでワークショップで作ろう」と、活動が自然と広がっていきました。
ほかにも、社内専用アプリでは一人ひとりが「感謝のメッセージ」を月に10通送ると、途上国の子どもに給食が1食届くという仕組みも取り入れています。日々の仕事が、めぐりめぐって社会とつながっている。そう感じてもらえたらと思っています。
そうした考え方の延長に、自然エネルギーのハチドリ電力を選ぶという選択もあったのでしょうか。
野口さん:はい。もともと田口さんの本を読んでいました。日常のなかで、自然と誰かのためになれる仕組みは、すごくありがたい。電気も同じで、息を吸って、吐くように、毎日の暮らしのなかで自然に社会とつながっていける。そこに共感したんです。
自ら選び、動ける子どもが増えていく社会へ

最後に伺います。野口さんが、子どもたちに残していきたいものとは、どんなものでしょうか。
野口さん:私たちは、設計と保育という手段を使っていますが、実は「建物を建てる仕事」「保育をする仕事」だとはあまり思っていません。設計も保育も、あくまで手段です。私たちが目指しているのは、自ら選択し、自ら決断し、自ら行動できる子どもたちを増やしていくことなんです。
その先に、どんな社会を思い描いていますか。
野口さん:自分だけのためではなく、誰かのために動ける人が増えたら、極端に言えば、争いだってなくなっていくかもしれない。もちろん、これは大きな夢の話です。でも、そういう世界を夢として語り、それを応援できる大人が子どもたちを育てていけたらいい。
私たちは、それを設計と保育という手段で実現していきたいと思っています。もちろん、自分たちだけではできません。だからこそ、こうして、同じ想いを持つ仲間と、手を取り合いながら、一緒につくっていきたいです。
大窪さんは、いかがでしょう。子どもたちに、どんな未来を残したいですか。

大窪さん:私たちは、園の経営者を支えることで、子どもたちが大人の愛に包まれる社会になればいいなと思っています。
でも、その一方で、環境に負荷をかけ続けることは、子どもたちの未来を前借りしているようなものだとも感じています。だからこそ、私たち大人ができることをしていきたい。次の世代に、この地球を少しでもいい状態で手わたせたらと思っています。
編集後記
野口さんが何度も口にされていた「先回りしない」という言葉。建築家として、あえて”考える余白”を残した空間をつくる。保育園の経営者として、まず体験し、自ら遊びを見つける時間を大切にする。一見、別々に見える二つの仕事は、どちらも「子どもの可能性を信じる」という、同じ想いから生まれていました。
そのまなざしは、保育や空間づくりだけでなく、日々の暮らしの選び方にもつながっているのだと思います。子どもたちのいちばん近くにいる人が、こんなにも、まだ見ぬ未来へ想いを馳せている。そのことが、なんだか、とても心強く感じられました。
目の前の子どもたちが、自分の足で、これからの社会を選び取っていく。そんな未来の一場面を、少しのぞかせてもらえたような気がしています。
株式会社blanco
福岡市南区を拠点に、「こどもの森保育園」として、認可保育所や小規模認可保育所などを運営。代表の野口直樹さんは、建築家として「野口直樹建築設計事務所」も主宰し、幼稚園・保育園の設計を数多く手がけている。子どもたちが身体や五感を使って学べる環境を、創意工夫を凝らしてつくり、「生きる力」を育む保育を大切にしている。子どもの無限の可能性に、そっと背中を押したい——その願いが、”ブランコ”という社名にこめられている。
https://blanco-kodomonomori.com/
株式会社いちたす
宮城県仙台市を拠点に、全国の幼児教育・保育事業を営む経営者を支援する、保育業界専門の経営コンサルティング会社。会計や財務、園児募集、職員のマネジメントまで、園の経営にまつわる多様な相談に応じている。「幼児教育・保育が良くなれば、未来は明るい」という信念のもと、経営者に家族のように寄り添う支援を大切にしている。社名の”いちたす(1+)”には、家族がひとり増えたような気持ちになって欲しい、 という想いがこめられている。
まずはハチドリ電力の仕組みや魅力についてお伝えします。
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