「好き」から、はじまる。Sense of Nature 森本弘太さんが、子どもたちと見つめる自然

一般社団法人センスオブネイチャーさま
- 教育・子育て
- ~100名

九州の山や海、川。四季折々の自然を舞台に、子どもたちのためのキャンプを続けている 一般社団法人センスオブネイチャー。掲げているのは、「自立の力を育む」というミッションです。
この活動をリードしているのが、野外教育のプロであり、北アルプスやカナダ、ニュージーランドの山々を登ってきたクライマーでもある森本弘太さん。森本さんが子どもたちと自然のなかで大切にしていること。そして、自然と私たちの暮らしとのつながりについて、お話を伺いました。
自分と向き合う、冒険という学び

森本さんが自然の世界へ進まれたのは、どんなきっかけからですか。
横浜で育ちましたが、両親の実家がどちらも秋田県にあって、幼少期から小学生のころは、そこで過ごすことが多かったんです。里山で土筆を採ったり、川で遊んだり、自然の中で過ごす時間が多かったです。
大学生のとき、モンベルというアウトドアメーカーでアルバイトを始めました。登山やロッククライミングにのめり込み、「これを仕事にできないかな」と思うようになりました。そうしてたどり着いたのが、長野県の「冒険教育」という分野でした。
「冒険教育」とはどんなものなのでしょう。
たとえば、登山をしたことがない方を、北アルプスの3000m級の山に連れていく。子どもから大人まで。僕らは、「非日常」という言葉を使っていましたが、日常から切り離された環境で、とことん自分自身と向き合う体験なんです。
辛くてもやめられないし、やりきるしかない。そんな状況になると、自分の弱さや癖がそのまま出るんです。普段何気なくしている言動が、人にどう影響しているのかに気づくこともある。そういう自分自身との対話が生まれるんです。できないことができるようになったり、諦めずにやりきった感覚を得たり。冒険を通して、新しい自分と出会っていくんです。
「自立の力」を育む
そこからどのように、いまのSense of Natureのキャンプを作ることになったのですか。

カナダやニュージーランドでクライミングを続けていた時期もあったんですが、ふと北アルプスで子どもたちと過ごしたプログラムを思い出しました。難しい壁を追い続けても終わりはないし、人と比べ続けてもきりがない。それよりも、自分が好きな自然体験を子どもたちに届けたいと思うようになったんです。
日本に帰って立ち寄った福岡で、いまの共同代表の古谷と出会いました。「子どもたちと自然の中で過ごせる場をつくりたい」 と。それで、2015年に一緒に初めてのキャンプを開催することになりました。
キャンプで、子どもたちはどんなふうに変わっていくのでしょうか。
長いキャンプになればなるほど、自分のことを自分でできるようになっていきます。 「どうしたらいい?」と聞かれたら、僕らは「どうしたいの?」と返すんです。キャンプカウンセリングと呼んでます。すると、「こうしたいんだけど、どうしたらいい?」という言葉が自然と出てくるようになる。
親御さんからは、「家でも自分のことをやりたがるようになった」とか、「スキーに行きたいから一緒に予定を調整しよう、と自分から言うようになった」という声をいただきます。「自分がやるんだ」という感覚を、少しずつ持てるようになっていくんです。
なぜ、キャンプが「自立の力」を育むのでしょう。
やっぱり、子どもたちが「自分でやりたい」と思えるような動機をつくれることかな、と。 誰かにやらされるのではなく、自分でやってみて、できた。楽しかった。そんな実感がちゃんと返ってくる環境が、主体性を育んでいくんだと思います。
あと、キャンプって面白くて。家族と離れて過ごすので、普段の関係性から少し離れられるんです。兄弟がいるなかで遠慮してしまう子や、お母さんには言えないことがある子もいる。そういう子たちが、自分らしくいられる場所でもあるんですよね。キャンプは、子どもたちにとってのサードプレイスのような存在なんです。
「好き」だから、守りたくなる
キャンプでは、自然の中で起きているさまざまな課題についても、子どもたちと一緒に考えることがあるそうですね。

そうですね。課題意識を持ってほしいというよりは、これも動機の話なんです。彼らが好きにならない限り、環境問題は解決しないと思っていて。
たとえば、「いっぱい遊んだやんばるの森で起きている問題だから、自分も考えたいな」と思えること。一般論として「環境は大事ですよ」と言われるのではなく、自分が好きになったもの、自分が大切だと思っているものに問題が起きている。そうやって当事者になれる感覚が大事なんです。そこから始めていかない限り、社会問題も環境問題も変わらない。これは僕自身の哲学でもあります。
自然のなかで活動するとき、大切にしていることはありますか。
「リーブ・ノー・トレイス(Leave No Trace)」という考え方を取り入れています。できるだけ自然にダメージを与えずに活動するという考え方です。
子どもたちも紙は必ず持ち帰りますし、山へ食料を持っていくときも、なるべくパッケージを減らしてゴミが出ないように工夫します。生き物を見つけても、「ここにいる生き物だから」と、そのまま自然の中に残していきます。
将来の自然がどうなるかという話は、子どもたちには少し想像しづらい部分もあります。だから「将来のために守ろう」ではなくて、「自分がここで過ごして楽しかった」「好きになった」。そんな場所を大切にしたいと思える感覚を、一緒に育んでいきたいんです。
薪で、ご飯を炊く
森本さんご自身は、環境についてどんなことを大切にされていますか。

Sense of Natureでは、福岡・糸島にある拠点「たきびの家」を中心に、子どもたちのキャンプを行っています。 この「たきびの家」には竈(かまど)があり、ご飯を炊くことができます。ここでご飯を炊くときは、電力を使いません。裏山で拾ってきた薪で、子どもたちがお米を炊くんです。
本当に大事なものは何なのか。それを、自分で考えられることが大切だと思っています。便利なものが当たり前にあるなかで、あえて薪で火を起こしてご飯を炊く。手間はかかります。でも、その体験のなかで、「自分は何を大切にしたいのか」を感じてもらえたらと思うんです。
手間をあえてかける。そこに意味があるんですね。
そうですね。たとえば、ここには冷房もないんです。だから正直、暑いんです。でも、人間の体って順応していくので、しばらく過ごすと、子どもたちも少しずつ暑さに慣れていくんです。
そうやって過ごしてみると、「冷房ってどこまで必要なんだろう」と、自分の体で感じられるようになる。「エネルギーを大切にしよう」と頭で考えるのではなくて、自分の体で感じることから始まるんです。そうして、自分の身近な環境について、自分はどう思うのか。何を大切にしたいのか。少しずつ自分の意見を持てるようになっていく。そんな体験をつくりたいと思っています。
僕は仏教や道教、東洋思想も好きで、「足るを知る」という言葉をよく思い出します。自分はいま持っているもので、本当に足りていないんだろうか。十分に満たされている部分もあるんじゃないか。そんなことを、子どもたちと一緒に体験を通して考えたりもしています。
暮らしとエネルギーを、切り離さない

ハチドリ電力を選んでくださったのは、どんなきっかけからですか。
正直に言うと、ハチドリ電力代表の田口さんにお会いする前までは、自然エネルギーに特別な関心があったわけではなかったんです。でも、YouTube動画の「となりのハチドリさん」でYAMAPの春山さんと一緒に歩きながら、「自分の生活とエネルギーは切り離して考えられないよね」と話しているのを見て、すごく共感しました。
エネルギーって当たり前のように使っているけれど、本当は当たり前じゃない。いろんなつながりの中で成り立っているものだから、それについて考えないというのは、自分の暮らしの中では違うなと思ったんです。
そのあと田口さんとお話ししたときに、「僕ら変なんですけど、エネルギーを使わないことを考えるエネルギー会社なんです」とおっしゃっていて。その言葉がすごく印象に残りました。僕らが子どもたちとやっていることとも、根っこの部分で通じるものがあるなと感じたんです。それが、ハチドリ電力を選んだきっかけでした。
Sense of Natureさんが大切にしていることとも重なったのですね。
そうですね。一緒に考えていく姿勢、というところは近いなと思いました。一方的に教える関係じゃなくて、一緒に考えていく。ハチドリさんも、電気を売るというより、「どういう暮らしがいいんだろう」とか、「エネルギーって何なんだろう」とか、そういうことを一緒に考える仲間を増やしているような感じがしていて。
それって、僕らがキャンプで大事にしていることとも、少し似ている気がするんです。何かを教え込むというより、一緒に考えながらつくっていく。その感覚に共感しました。
共につくる社会を、次の世代へ

最後に。Sense of Natureとして、これからどんな体験を届けていきたいですか。
子どもたちにとって、自然の中での活動は非日常です。でも、その体験が日常にふと戻ってくることがあると思うんです。早起きをしたときや、何気ない瞬間に「あのとき楽しかったな」と思い出す。そういう経験を大事にしてもらえたらうれしいですね。
最終的には、キャンプに関わってくれる子どもたちが、みんな自分らしく社会を生きていけたらと思っています。キャンプでは「これをやりたい」「私はこうしたい」と伝えられて、それがかなうこともあります。でも日常に戻れば、いろいろなことと向き合うことになる。そのときにも、自分らしく選び、自分で考えられる感覚を持っていてほしいんです。
あとは、迷ったときに帰ってこられる場所でありたいとも思っています。小学生だった子が、大学生になってキャンプカウンセラーとして戻ってきてくれることもあります。子どもたちだけでなく、大人にとっても、いろいろな関わり方ができる場所になっていけたらと思っています。
森本さんが未来へ残したいものを、一言で表すとなんでしょうか?
「SAVE Experience」ですかね。体験することを、大事にしてほしいんです。僕らは、豊かな自然と共に生きているんだと思っています。自然と人の暮らしは切り離されたものではなく、共にあるもの。その感覚を、子どもたちにも、大人にも、体験を通して手渡していきたい。
自然を守るとか、支配するとかではなく、共につくっている社会なんだということを感じられる人が増えていったらうれしいですね。
編集後記
子どもと歩いていると、虫を見つけて立ち止まったり、葉っぱを拾って嬉しそうにしていたり。そんな姿を見るたびに、自然に目を輝かせるその感性をいつまでも失わないでいてほしいなと思います。
森本さんが繰り返し話されていたのは、「好きになることから始まる」ということでした。
環境問題だから大切にするのではなく、自分が好きになった場所だから守りたくなる。将来のためだからではなく、自分が楽しかったから大切にしたくなる。その言葉を聞いて、自然を守ることも、社会を良くすることも、本当はそんなふうに始まるのかもしれないと思いました。
便利なものに囲まれた暮らしの中で、つい忘れてしまいそうになるけれど、自分にとって本当に大切なものは何だろう。どんな景色を、この先も残していきたいだろう。森本さんのお話を聞いて、その問いをこれからも大切にしていきたいなと感じました。
一般社団法人センスオブネイチャー
福岡・糸島を拠点に、九州各地の自然を舞台として、子どものためのキャンプを、企画・運営している団体。北米コロラドで70年以上続くキャンプ「サンボーン・ウェスタン・キャンプス」をモデルに、2015年に九州でスタートした。「何が大切かを自分で考え、判断し、行動する力=『自立の力』を育む」ことをミッションに、福岡・糸島の「たきびの家」を中心に、長崎・五島、沖縄・やんばる、長野など、四季折々のプログラムを展開している。野外教育のプロフェッショナルが、子どもたちの自然のなかでの学びと成長を支えている。
https://sense-of-nature.jp/
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